胸椎の圧迫骨折が原因となる肋間神経痛
今回は、胸椎(つい)の圧迫骨折後の肋間(ろっかん)神経痛について説明します。
「2カ月前、部屋の模様替えをした後から背中に鈍痛が出現しました。それが始まりだったのでしょうか、翌日からは激しい痛みで動くのも困難となりました。しかし、痛み止めとシップを続けて、少しずつは楽になってきています。それにしても、動作時や寝返りの際に背中から脇に響く痛みには参ります」。
この方は72歳の女性ですが、原因不明の肋間神経痛として治療を受けていました。
レントゲンの結果は、12個ある胸椎の上から6番目の椎体が少し変形して、他の椎体より白っぽく見えました(図A)。椎体の圧迫骨折では、最初から椎体が潰れるとは限りませんが、椎体に浮腫(ふしゅ=水分が多くなります)が起こることが知られます。
この浮腫によってX線の透過性が低下するため、レントゲン写真では正常より白く見えるわけです。MRIで確認すると、予想通り第6胸椎に比較的に新しい圧迫骨折を認めました。
この圧迫骨折の痛みは、骨折した骨(椎体)自体に由来するものと骨折部位を挟む上下の椎間関節の歪(ゆが)みによるもの(椎間関節症)に大別できます(図C)。つまり、圧迫骨折の初期は前者によって、背中の広い範囲に強い痛みを生じます。一方、この症例のように骨折から2カ月も経過すると、椎間関節症が主因となって背中から脇に響く痛みを生じます。
ところで、胸椎から出る脊髄(せきずい)の神経が胸(きょう)神経ですが、前枝と後枝に別れます(図B)。その前枝が肋間神経で、肋骨の間を通って背中から脇の方へ分布します。そのため、何らかの原因で前枝が刺激されると肋間神経の走行に沿った痛みを生じます。これが肋間神経痛です。
一方、後枝は非常に細い神経で、背中の皮膚や筋肉、椎間関節などの情報を中枢に伝えます。従って、後枝が刺激されると背中に痛みを生じるはずですが、実際は後枝を経由した刺激は前枝から来た刺激と誤認されやすく、特に椎間関節症では肋間神経と同じ痛みを生じます。つまり、この症例の肋間神経痛は実際に肋間神経が刺激された結果ではなく、椎間関節の症状なのです。
従って、圧迫骨折の後の頑固な痛みの治療では、椎間関節ブロック(2009年9月26日号)や高周波熱凝固(2009年10月24日号)が適応となることは言うまでもありません。
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※このコラムは、福山光南クリニック・橋本秀則先生
に伺っています。
(「リビングふくやま」2012年2月25日号掲載)